宮城秋乃さん(チョウ類研究者) 強制捜査 ③ ~ 米軍のプロパガンダに利用されるやんばるの森

 世界自然遺産登録で地元は沸き返っている。が、宮城さんは、「そこに米軍廃棄物が除去されないまま残されていることはわかっているのに登録されたのは、正当な評価ではないと思う。審査で一番の問題であったはずの米軍廃棄物のことが、評価書に一言も触れられていないのはおかしい。世界自然遺産登録は、利権と軍事が絡む。きっと裏で何かあったはずだ」とみる。

 世界遺産登録で宮城さんが一番懸念しているのは、「米軍基地があったおかげで、やんばるの自然は守られた」という暴言ともいえる言説が、これまで以上に拡散され、米軍のプロパガンダに利用されることだ。「米軍廃棄物の存在が隠蔽されたまま世界遺産であり続ける限り、やんばるの森は永遠に米軍のプロパガンダに使われる。そういう意味では、“世界遺産登録された。バンザイ!”と手放しで喜んでいる沖縄県は、自ら米軍にプロパガンダの材料を与えたようなもの。米軍廃棄物の隠ぺいに加担している。自然保護という世界遺産の理念とも矛盾している。こんな筋が通らないことは許せない」と憤る。 

 廃棄物の残留だけが問題なのではない、世界自然遺産の森は境界線が示されることなく米軍基地に繋がっている。上空を毎日のようにオスプレイが飛び交い、凄まじい騒音がヤンバルクイナやノグチゲラなど貴重な森の生き物たちの生存を脅かす。最大の環境破壊をもたらす戦争が目的の基地と、環境保護理念とする世界自然遺産は相いれない。「米軍廃棄物を撤去しないなら世界遺産登録は返上すべきだ」と宮城さんは言い切った。

<写真①:やんばるの森は、世界的にも稀有な生物多様性豊かな森。沖縄固有のヤンバルクイナやノグチゲラ、リュウキュウセマルハコガメなどいくつもの絶滅危惧種が生息している。

<写真➁:米軍北北部部訓練場メインゲートに着くと、途中にある第二ゲートの警備員から宮城さん通過の知らせを受けた軍警が、カメラを構えて待っていた>

<写真③:宮城さんが指さしている張り紙。「ここは廃棄物処理場ではありません」と書いてある。「それはこちらのセリフでしょ!」と言いたくなる>

 

 

 

 

2021年10月12日リンクURL

宮城秋乃さん(チョウ類研究者) 強制捜査 ➁ ~ 米軍のゴミ捨て場にされた世界遺産の森

 今年、世界自然遺産に登録されたやんばるの森は、米軍がジャングル戦を想定した戦闘訓練をする「北部訓練場」だった。残る部分への新たな6つのヘリパッド建設を条件に、2016年その過半が返還された。

 宮城秋乃さんは、希少種の蝶・リユウキュウウラボシシジミの詳細な生態を記録したチョウ類研究者である。世界的にも稀有な生物多様性に富むやんばるの森は、宮城さんにとってかけがえのない研究フィールドだ。返還地が地権者に引き渡された直後から北部訓練場跡地に入った。そこで目にしたのは、散乱する米軍廃棄物のヤマだった。2000発以上の不発の銃弾空包、手榴弾、野戦食の袋、未使用の訓練用砲弾、放射能物質・コバルト60を含む電子部品もあった。

<写真➁提供:宮城秋乃さん>

 今回の返還地だけでなく、約30年前に返還された場所からもたくさんの米軍廃棄物が見つかった。そこでは地中に埋められたPCBやDDTが、土壌を汚染していることも分かった。これらの有害物は森の生態系に影響を及ぼし、生きものたちの命を脅かす。不発弾を見つけるたびに警察に通報し、米軍廃棄物を米軍や防衛局に回収するよう訴えた。それを地元紙が取り上げてきた。「それまでは、合法的に訴え、抗議してきた。それでも米軍も防衛局(国)も、県警もまともに取り合ってくれなかった。ついに堪忍袋の緒が切れて、4月7日、廃棄物を袋から出して、北部訓練場メインゲートにばら撒いた」のだった。

<写真①:亜熱帯の気候に育まれた生物多様性豊かなやんばるの森>

<写真②提供宮城秋乃さん:上空で訓練する米軍のヘリなどから見えるように米軍廃棄物で描いたSOSは、森の生き物たちの悲鳴である>

<写真③:2017年の夏、宮城秋乃さんの案内でやんばるの森を散策した。立ち枯れた大木の幹。たくさんの生き物たちの住処となり、やがて朽ちて土に還る。自然の営みに何一つ無駄がないことを、宮城さんは気づかせてくれた。>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年10月11日リンクURL

宮城秋乃さん(チョウ類研究者)強制捜査① ~ 権力にもの言う者に対する見せしめ

 「県警、宮城さん家宅捜索」、去る6月7日の琉球新報の記事に、一瞬身体が硬直した。
 報道によると、宮城秋乃さん(チョウ類研究者)は、4月7日、米軍北部訓練場メインゲートのイエローラインの内側に、米軍廃棄物を並べて、引き取るよう求め抗議した行為が、威力業務妨害に問われ、家宅捜査を受けたという。

 おりしも「重要土地規制法案」が国会で強行採決される直前で、「辺野古ゲート前などの抗議行動も対象にすべきだ」と主張した自民党杉田水脈衆議員議員の国会での発言が頭に浮かび、この法律の行きつく先を暗示しているようで、背筋が冷たくなった。

 宮城さんに現場を案内してもらい、お話を伺ってきた。その模様を4回にわたって紹介する。

<見せしめの家宅捜索>
 その朝、「県警警備一課(警視庁でいえば公安に当たる)の警察官ら10人ほどがやってきて、威力業務妨害の容疑で家宅捜索するという。とうとう来たか!と思って、一応、“ゲート前で並べた米軍廃棄物と室内にあるものとは、何ら関係ない”と主張した上で、家宅捜索を受け入れた。

 捜査令状を元に、携帯電話やパソコン、メモリーカード、ビデオカメラなどを押収、書籍類を撮影した。しかし、庭に複数のゴミ袋に入れて置いてあった米軍廃棄物には見向きもしない。自ら“あそこに証拠品の米軍廃棄物があります”と言ったが、袋を開けようともせず、押収もせず、中味の見えない袋の上から撮影しただけだった。捜査令状の押収リストの中にも、一番の証拠品であるはずの米軍廃棄物は入っていなかった。その瞬間“目的は威力業務妨害ではないな”と感じた」という。

(写真➁)

 宮城さんが米軍廃棄物をゲートに置くなどの抗議行動を行ったのは、強制捜査の対象となった4月7日が初めてではない。ゴミを捨てた当事者である米軍に直接返そうと、軍車両の前に立ちはだかったり、基地のゲートにゴミ袋を置いたりする抗議はこれまで何度もしてきた。

 特に昨年の12月、放射性物質コバルト60が含まれている電子部品を置いたときは、約7時間にわたってメインゲートを封鎖させた。「威力業務妨害というなら、こっちの方が米軍の被害は大きい。捜査の対象になった日はすぐに警察が来て排除されたので、1時間(写真③)

半ほどしか車を止めていない。なのに、なぜこの日なのか、たぶん放射性物質が北部訓練場跡地からでたということを知られたくなかったのでしょう。県警は、どこかから“あいつを何とかしろ!”と言われて、何とかしに来た、という感じだった。見せしめですね」


 権力に物言う者はこうなる、という見せしめである。宮城さんは家宅捜索から連続4日間にわたって取り調べを受けた。威力業務妨害にしても道交法違反にしても「これまでの法律では、こじつけにこじつけて私を押さえつけてきたが、初めから権力に利することが前提の重要土地法では、こじつけるまでもなく、権力のやりたい放題になる」。本当に恐ろしいことだ。

(※写真➁③提供:宮城秋乃さん)

2021年10月10日リンクURL